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 感動の39年優勝の瞬間を社会面に 60年優勝後ダメトラに

 阪神タイガース・ファンには"超"と"猛"がつく。戦後のすぐ、北陸・金沢の兼六園球場へタイガースの試合を見に行き、名投手の若林投手兼監督、スラッガーで猛ファイター藤村三塁手、呉、別当外野手、本堂二塁手、土井垣捕手など個性豊かな選手がいて魅せられてしまった。物干し竿といわれた長いバットを振ってホームランをボンボン打ち込んだ藤村選手の闘志はすごかった。だめだとわかっていながら本塁へ猛然と突入して体当たり、落球を誘って生還した印象が焼き付いている。また、華麗にホームランを生産したかっこいい別当選手にも憧れた。
 以来、なんでもかんでもタイガースになってしまった。昭和二十五年(一九五〇)、二リーグに分裂したとき、若林、別当、呉、土井垣選手ら主力が毎日オリオンズに移籍した。あのときのショックは忘れられないが、出て行った選手が大きらいになった。
 朝日新聞記者になってから、ますますタイガースへの思い入れがひどくなった。多分にライバルY新聞が球団を持っていることも影響しているかもしれない。
 そのタイガースが昭和三十七年の優勝の時は大津支局に勤務していたが、優勝記事の載ったスポーツ新聞を買い集めたものだ。

◆ 張子の大虎に応援弁当
三十九年優勝の時は社会部の遊軍で、デパートを含む町ダネ探しをしていた。優勝が近づくと、タイガース系のデパートが力を入れ始め、取材にいくと「何かいいアイデアはありませんか」と聞かれた。そこで、まず大きな張子の虎をデーンと入り口に飾ってムードを盛り上げ、「六甲おろし」のメロディーを閉店まで店内に流す。食品売り場では「トラトラ応援弁当」を販売する。例えば中身は"相手に勝つ"意味のトンカツ、塩焼きタイの切り身を添えて、今日も勝って"めでタイガース"、大根おろしも添えて、さあ歌おう「六甲おろし」とコメントを入れる。ライスは赤飯などと提案した。

◆ ファンが選手を胴上げ
 まもなくそのデパートから電話がかかり「張子の虎を飾りました」。すぐに取材に行きコラムにしたし、ずいぶん優勝トラにまつわる話題で記事を稼いだ。
 念願は優勝の瞬間を社会面に書くことだった。デスクに、そのむね頼んだら「よし、その代わり、冷静な名文を書けよ」と釘を刺された。それから優勝まで十数日間、夕方から甲子園の試合をネット裏で観戦した。熱っぽいトラファンは一試合ごとに応援のボルテージをあげていった。
 そして九月三十日、中日に連勝してセリーグの優勝を決めた。その瞬間、どっと観衆がグラウンドになだれ降りてタイガースの選手目指して走り出し、バッキー、村山選手らが次々に胴上げされた。荒っぽい祝福に選手は逃げ出した。まるで暴動のよう。
 記者席からそれを双眼鏡で見ながら電話で、記事を作りながら"勧進帳原稿"で本社へ送り、同僚に書き取ってもらったが、球場の歓声で声がかき消され、繰り返し、声を張り上げたので、「興奮するなよ」といわれたものだ。
 翌日朝刊の社会面の真ん中を飾ったが、お堅い朝日新聞がプロ野球の優勝を社会面で大きく報じたのはこれが初めてだった。以後、二十一年も優勝から遠ざかったのだから、トラファン記者冥利に尽きる体験だった。  ちょうど東京オリンピックが開催され、東海道新幹線、名神高速道も開通した歴史的な年でもあった。
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 それから二十一年目の昭和六十年にやっと日本一になった。が、その後は再び、ふがいない成績で低迷を続けている。イライラが続く。たまりかねて平成元年十月十日付朝刊の記者コラムで「だめトラファンのつぶやき」を書いた。それを一部再録すると。
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 シーズンが終わらないのに阪神タイガースの時期監督交代が決まった。いずれ監督になるべき人の中村勝広さんだから順当だし大いに期待したい。しかし、毎度のことながら、新聞辞令が早々と飛び交うのが気に食わぬ。今回もはじめ「監督に一枝氏」と出た。これでは熱血漢の村山監督もやる気をなくしてしまうだろう。球団側が新聞にリークしたのか、どうか知らないが、監督問題は最高の秘密であるはず。それがもれるのだから「お家騒動」と書かれるゆえんだ。ファンとしては陰湿さに、むしょうに腹が立つ。
 それにしても、4年前のあれよ、あれよという間にパの優勝チーム西武も破り日本一になったのは"まぼろし"ではなかったか、と思いたくなる。その後の低迷がはがゆい。だが、ファンとは底抜けに、お人好しだ。最近、胃の調子が悪く、胃カメラを飲んだら「かなり荒れて表面がシマ模様に波を打っている」といわれ、「萎縮性胃炎」の診断。毎日、試合経過を見ては「また負けたか」とイライラ"イラストレーション"だから、萎縮もするし、どこかのユニホームに似て、シマシマにもなるさ、とあきらめている。定年が切迫し、もう優勝記事は書けない。やけ酒と医薬を飲みながら、あと十七年(?)夢を見続けるとするか。
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 このコラムの反響は大きかった。関西はもちろん、四国・高知、富山県までの読者から手紙がきた。胃炎の治し方など。ありがたい。おかげで、胃炎は次第に"イイ調子"になって来た。しかし、タイガースは以前のダメトラに堕し、"眠れるトラ"のままだ。ファンは毎日、勝っていても、いつ逆転されるか"ファン"な毎日を過ごしている。
(平成二年「記者の思い出」)

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