花博のカウントダウンとともに記者生活35年に終止符
花と緑の博覧会(花の万博)はいよいよ四月一日に開幕する。オープンまで「後1000日」からカウントダウンが始まった。多くの人は数字が減るにつれて“花やか”な、お祭りの接近に心がときめいたことだろう。が、私にとっては、憂鬱なカウントダウンの毎日だった。
実は定年が四月二十日なのだ。だから、花博オープンの日に二十日足すと私が“花と散る”日になる。皮肉にも大きなカウントダウン・デジタル表示板は通勤道にあるから、毎日、往復見るはめに。初めのうちは「なにまだ二年以上もあるさ、気にしない」と心にいいきかせてきた。が、百日を切ったころから「あと三カ月しかないのか」と深刻な心境になりはじめた。途中から、「殺生だぜ、あちこちで、わが輩を追い出そうとカウントしているようなもんだ」と同僚に冗談まがいに心境をもらしたのがいけなかった。以来、顔を合わすたびに、みんなが「あと××日ですね」といってニヤリとするようになった。
いささか、オーバーかもしれないが米のオー・ヘンリーの小説『最後の一葉』の主人公の心境にも似ている。肺炎で重体の女性画家はベッドの窓越しに見える壁のツタの葉が落ちるのをカウントダウンし、全部落ちたら自分は死ぬと信じ込む。しかし、最後の一葉だけ落ちず、元気になる。実は助けようと老画家が描いた一葉だった。わが“最後の一日”を描く画家はいないし、さいわい次の人生も決まり、止める絵を描いてもらっても困る。思えば、この「1000日」くらい、じっくり、かみしめて生きた黄金の日々はない。サラリーマンには必ずその日がやって来るのだし、人生だって生まれたときから死に向かってカウントダウンの毎日じゃないか。「花博とともに去る」、それもカッコいいぞ、と自分流に“定年花道”にハク(箔)をつけた。こじつける?余裕もできた。
“花ハク”くんよありがとう、カウントダウンくんよありがとう!さようなら。
(九〇年三月二〇日朝刊「記者から」)