ウオツカ「チンギス・ハーン」に酔う
この夏モンゴルを旅した。平均月給が一〇ドル前後の国だから、何でも安くて感激だ。首都・ウランバートルのホテルでは缶ビール(三三〇ミリリットル)が一ドル。ほとんどシンガポールからの輸入。地酒はアルヒというウオツカ。その典型はモンゴリアン・ウオツカの「チンギス・ハーン」で四〇度と七〇度。五〇〇ミリリットルで五ドル。十三世紀から十四世紀に中国、ロシア、東欧からペルシャまでを統一しモンゴル帝国を築いた、あの英雄の名そのもので、長いあごひげの顔のラベルが貼ってある。
チンギス・ハーンは日本で成吉思汗鍋などで知られる。アルヒは汗を流すほど強いが、さらりとしていて悪酔いしないのはさずが。
砂漠に寝転んでモンゴリアン・ブルーの空を見上げ、ハーンを偲びながら、こいつを飲む。標高一五〇〇メートルで酔いも早いが、"アルヒ"死んでも満足という、いい"こんころ持ち"になる。日本の羊肉を焼くジンギスカン料理にも合いそう。山羊か羊知らないが、思わず「ウイー、ウメー!」と叫びたくなる。
やはりモンゴルでは遊牧民の移動式住宅「ゲル」(中国ではパオ)に泊まらねばなるまい。ウランバートルから飛行機で一時間半、南下した南ゴビのマンダハヤ地区には観光用のゲルがあり、別棟に水洗トイレ、シャワーからレストラン、バーまでそろう俗化ぶりに"ナンダハヤ"。チンギス・ハーン一本十五ドルと高かったが、満点の星と対話しながら杯を傾けると気分はマンダハイ。天の川のそばで流星が次々に落ちる。人工衛星が右から左へ光跡を描いて行く。美しい星座を見ていると"正座"をしたくなるカンドーだ。
あちこちゲルを訪問したが、必ずお茶代わりに出されたのが馬乳酒。馬の乳を自然発酵させたもので、アルコール度は三%の乳白色。やや、強いヨーグルトの感じで、酸っぱくて口が"モンゴル"。
旧ソ連に支配されていた時代はチンギス・ハーンは侵略者で話すことすらタブーだったが、今、英雄として復活、生誕八百年祭も実施された。
昨年から「人民共和国」を取って「モンゴル国」になり、来年からはロシアのキリル文字からモンゴル文字に戻る。いずこも歴史はチェンジの時代。
(九十三年十一月号)