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 「伊豆の踊り子」と椿の伊豆大島

◆ 伊豆の踊り子の舞台
 “あんこ椿”の島から椿祭りの届いた。川端康成の名作「伊豆の踊子」に出て来る旅芸人グループが大島の出身だ。そういえば三原山が噴火してから三年たつ。どんな島になっているか、二月中旬に行ってみた。
 温泉街の熱海港に立つと前方に大島が霞んで見えるが、快速船で一時間で行ける。島に上がって東海汽船大島支店で話を聞く。「いやあ、噴火の時はすごかったですね。逃げるのに必死で。逃げる足はうちの船だけですから、ピストン輸送でした。感謝状をもらいましたが」と当時の様子を話してくれた。
 島は“ツバキづくし”だった。並木のツバキが赤い花を咲かせ、宿の小涌園の姉さんもツバキを染めた手ぬぐいをかぶった“あんこ”さんで「遠くから、よくいらっしゃいました」と、お茶うけに、あん入りの“椿あんこ”で迎えてくれた。夕食の料理も“椿料理”。
 東海汽船のT主任に車で案内してもらった。時計回りに一日かけて一周した。「港のみえる丘」に行く。下は岡田港だ。林芙美子著「大島行」には、この港がナポリの漁師町に似ている、と書いている。「島流し」にされた源氏の武将、源為朝が着いたのもこのあたりとか。

◆ ツバキのトンネル
 泉津の集落でツバキのトンネルをくぐる。一周道路の一部だが両側にあるツバキ並木がトンネルになり、敷き詰めたような、落花が美しい。“滅びの美”か。「国の特別天然記念物になっている桜株を見ましょう」とTさんは少し山へ入った。樹齢八百年で太さ八メートルある。根分かれしているので、かなり広い範囲を占める。この島にあるオオシマザクラのルーツといえよう。いまも三月下旬に美しい花をつけるそうだ。Tさんによると、昔は周辺に樹木が少なく、航行する船の目印し役もしていたそうだ。
 海のふるさと村へ。最近、出来た椿資料館にはツバキに関する解説やいろいろなツバキが並んでいた。そばに、椿園。三百種ものツバキが咲き競っていた。その間を「チュン、チュン」とメジロが飛び交い、花の蜜を吸っていた。クジャクやホロホロ鳥などを放し飼いにした動物園もふるさと村の一部で、東京都の運営。そもそも、大島は東京の一部なのだ。
 海岸線を走り、波浮に入る。ここの根ツバキトンネルもすばらしい。樹齢三百七十年の古木は幹まわりが二・三メートルもある。この島のは一重花のヤブツバキが主だが、二〜四メートルもの大木が多い。だから、花は上で咲く感じ。いかにも素朴なこの島にぴったりの花といえよう。

◆ 鵜の銅像が建つ 野口雨情の世界
 波浮の港の見晴し台に立つ。大昔は湖だったが、噴火で海とつながった小さな漁港。下って港の一角にある野口雨情の歌碑へ。雨情作詞、中山晋平作曲の「♪磯の鵜の鳥や 日暮れにゃかえる 波浮の港にゃ…」と流行した六十一年前の歌で、熟年にはなつかしい。歌碑の横にそれらしく銅像の鵜を五羽あしらってある。
 踊り子たちの旅館だったという港屋が資料館として航海されていた。木造三階建ての宿は町が買い取って改修、映画「伊豆の踊子」のヒロインの美空ひばり、などの写真を飾ったり、踊り子が宴席で踊りを披露している場面をリアルな人形で再現していた。地区の入り口には「波浮港 踊子の里」の標柱が建っていた。

◆ 特産・椿油搾り
 元町まで走り、椿油を作っている高田製油所をのぞく。ツバキの種をくだいて、せいろで蒸す。その後、機械で搾る。まさに手作りといっていい。二代目で六十年になるそうだ。整髪用油と、てんぷら油には差がなく、どちらにも使えることを初めて知った。

◆ 噴き続ける御神火
 帰る日、快晴になった。白煙を上げる三原山が目の前だし、ホテルのそばが付属のゴルフ場で朝早くからゴルファーがプレーしていた。第一ホールのティーショットは伊豆半島越しに立ちはだかる富士山めがけて打つ。快適だろう。
 車で三原山に登る。火山灰で登山道は途中で埋まり、新しい道が付いていた。登るほどに、あちこち粉炭のような火山灰が樹木などに残って枯らし噴火の凄さを物語っていた。新しい火口が口を開け、焼け焦げた立木も。火口では、絶え間なく、白い噴煙の“御神火”が勢い良く吐き続けていた。なんだか自然破壊に抗議する“神の怒りの火”にも見えた。

【メモ】島一周五〇キロで淡路島の三分の一。ヤブツバキが有名だがオオシマザクラも多い。「あんこ」は伊豆大島で娘、婦人のことをいう。  三原山中腹にある大島温泉ホテルは唯一温泉がある。露天風呂から目の前に見える噴煙も豪快。
 【椿料理】大島小涌園で食べた椿料理は、伊勢えびなど海の幸と豆腐や野菜など陸の幸を、ころもに包んで串刺しにして椿油で揚げる日本調フォンディユーだ。「あしたば」という特産の野草が珍味で、健康にもいいという。
(八十九年二月二十三日「旅ウオッチング」)

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