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「知覧(鹿児島)」終戦記念日が来ると思い出す


1986年(昭和61)8月13日 朝日新聞夕刊レジャーのページ「旅」


 今年も8月15日の終戦記念日が近づいた。熟年層は焼けつくような、あの日「耐え難きを耐え…」で始まる天皇の“玉音”を耳にし「すべては終わった。しかし、明日からどうなるのか?」と虚脱感と不安に襲われたのを思い出すだろう。
 第2次大戦のモニュメントがいろいろある中で、特攻隊の出発基地だった南薩摩・知覧(ちらん)町が脚光を浴びている。今春完成した「特攻平和会館」の生々しい資料が訪れた人の心を打つ。それとすばらしい庭園を持つ独特の武家屋敷通りの再生に成功し、全国から見学者や観光客が詰めかけ、新しいタイプの“町おこし”として注目を集めている。

山の中に特攻基地

 それにしても、こんな山の中に、あの特攻隊基地があったとは?と思う。いや、そんな土地だからこそ、爆弾もろともに敵艦に体当たりする、という、ちょっと考えられない“人間ミサイル”的奇襲作戦の秘密基地として選んだのだろう。そんなことを考えているうちに、特攻平和会館の着いた。
 いや、びっくりした。観光バスがずらりと並び、マイカーも多い。“平和観光”に力を入れているのがよくわかる。

あどけない少年特攻隊委員

 まず、目に入ったのが、あどけない表情の少年飛行隊の像「とこしえに」だった。
会館に入ると、出発する特攻隊機と、それを見送る戦友の像、ぼろぼろになった特攻隊用戦闘機「零戦」の機体の一部が展示されている。出発したが、エンジン不調で鹿児島沖に不時着、水没したのを7年前に引き上げたものだ。

涙を誘う遺品の数々

 いろいろな展示品の中で、強烈な印象を与えたのは若き特攻隊員の英霊コーナーと遺書、絶筆コーナーだ。英霊コーナーには、ずらりと軍服すがたの写真が並んでいる。すでにセピア色に変色している。が、17歳から20歳代が主力だ(現在の高校から大学2年)。丸坊主のあどけない表情の彼らが、出撃前夜、つまり死ぬ前夜に笑顔で腕相撲をしている。既に飛行服を着て出撃する寸前に子犬と遊ぶ若桜(少年隊員)、出撃20分前の腹ごしらえ、出撃を見送る女学生…。  膨大な遺書の最後には、決まって「お父さん、お母さん、お世話になりました。親孝行出来なかったのが残念です。すみません。いつまでもお元気で。さようなら」と結んでいる。それを丹念に読むのは熟年が多い。そして必ず、ハンカチを目に当てるのが印象的だ。

「片道切符で行きます」

 遺書の中で、「一度死んで見るべえ」「浮き世から冥土行き 軍人5割引き 途中下車お断り(特攻につき)」「片道切符で行きます。さようなら」など、胸にズキンとくる遺書ばかりだ。どれも力強く、達筆だ。人間、死に直面すると、こんなに堂々と、すばらしい字で思いのたけを書けるのだろう。しかし、幼い彼らには「死」とはどんなものか、知らないまま、命を絶ったのだ。

少年の命、1000以上が散った

 町役場の話では、昭和17年(1942)に陸軍飛行学校の知覧分校として開校、少年飛行兵、特別操縦見習士官らの訓練を目的とした。が、戦況悪化、戦闘機、砲弾も不足し、日本軍は、“人間爆弾”特攻隊編成を決意、昭和20年になって知覧を特攻基地にして沖縄方面へ出撃。1026人が散ったのだ。
 全国からの浄財で昭和30年に平和観音堂、50年に遺品館が建てられたが、続々寄せられる遺品を収容しきれず、今の会館を今年2月に完成させた。外郭団体が運営に当たっているが、観音堂の両側に亡くなった特攻隊員の数だけ石灯籠を建てる計画も進んでいるという。

島津藩時代のすばらしい庭園

 戦争の傷にうずく胸を抑えて町の中心街に入ると、見事な町並みに目を奪われた。きれいに整備され、街灯は灯籠を型取り、白壁の家が並び、町内を流れる小川には鯉が泳ぎ、水車も回っている。
 武家屋敷通りに入ると、200年前の格調高い家並みが息づいていた。武家屋敷というと土塀を連想するが、ここは石積みを基調に、その上に茶の木やツツジ、イヌマキなどで刈り込んだ生け垣だ。知覧領主の島津久峯公の時代に造られたものだが、特に庭園がすばらしく、7軒の庭が国指定の名勝になっている。

砂蒸し温泉で自爆する夢

 ここまで来たからにはと、指宿市まで車を走らせ、有名な「砂蒸し温泉」に。砂をかけてもらうと、下から、横から暖かさがじわりと湧いてきて、気持がよくなり、うとうととしてしまった。
 「操縦桿を下げる。見る見る敵艦が迫った。目の前で火花が散った、と思った瞬間、夢からさめて我に還った。自爆する夢を見たのだ。冷や汗でびっしょりになっていた。

【メモ】

 大阪〜鹿児島は空路1時間、鹿児島市内までバス1時間、さらにバスで1時間半で川辺郡知覧町。武家屋敷通り(長さ780b)の整備に56年から4年間かけて1億8000万円かけた。庭園拝観料は300円(6軒だけ)。特攻平和会館は入館300円。5月3日の特攻観音慰霊祭には全国から参拝者が訪れる。

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