牧野富太郎が「キブシ」について【フジの花のような総状になった花序に黄花が咲くと考えて、キフジ(黄藤)という人があるが、これは誤りである。】p.464『牧野新日本植物図鑑』(北隆館1961年発行、1989年改訂増補)と書いているということを実際の本を見て確かめた。この本には「ナンバンキブシ」のことは書いてないようだ。
ついでに、『原色植物図鑑』(保育社昭和46年刊昭和58年19刷という、よく学校の図書館に置いてある図鑑を見たら、なんと、キブシ科キブシ属のキブシについて、
牧野富太郎の指摘(黄藤キフジとする間違い)にもかかわらず、「キブシ」と「キフジ」を併記している。(前者は太字体、後者は普通の活字体)p.210
次頁(p.211)にそのヴァリエーションの意味か「※」で「ナンバンキフジ」(これのみ太字)と「ハチジョウキフジ」「エノシマキブシ」が併記されている。
「エノシマ・・・」だけ「キブシ」になっている。また、「ヒマラヤキブシ」の「キブシ」に近縁のものとしている。
森林植物園が典拠としたものは、この図鑑の可能性が多い。
結局、「どちらの呼び方も在るのだからいいじゃないか。」ということで締めくくられそうだが、そうだろうか?ちょっとした公園の名札なら別に拘らないけど「森林植物園」の名札はそれでいいのだろうか?というのが私の執拗な拘り方である。
とくに、『広辞苑』で「キブシ」は「木五倍子」、「キフジ」は「黄藤」で「エンジュ」の別称と在り、これはキブシ科ではなくマメ科で夏の季語だということは以前書いた。五倍子(ふし)というのは、お歯黒として使う黒色の染料で、キブシの実の粉はそのフシの代用だったようだ。
調布図書館のレファレンスに参考になる植物図鑑をいろいろ並べてもらって調べた限りでは、「ナンバンキフジ」と「ハチジョウキフジ」という名を採用しているのは、この『原色植物図鑑』(木本編I)(保育社刊)だけで、その著作者は京都大学名誉教授の北村四郎と京都大学講師の村田源である。
「ナンバンキブシ」「ハチジョウキブシ」という表記をしている図鑑の監修者や執筆者を見ると東京大学関連が多いように思う。
『日本の野生植物』(平凡社刊)「ナンバンキブシ」の項は大場秀章(東京大学)
『日本植物種子図鑑』(2000年、東北大学出版会刊)は東北大と宮崎大の先生。
『日本の樹木』(山と渓谷社刊)
同じ(山と渓谷社刊)の『山渓ハンディ図鑑』には、「キブシ」の項の備考として
地域的な変異が多く、1918年には大隅半島でナンバンキブシが記載され、(略)
1921年には八丈島でハチジョウキブシ、1939年に江ノ島でエノシマキブシが記載された。
と書かれている。他に小笠原のナガバキブシ(葉が厚く、果実が大きい)箱根のコバノキブシ(葉が小さい)のことも書いてある。
用途/昔は髄を灯心に、果実に含まれるタンニンはお歯黒に用いた。
とも書いてある。
長文で、何を言おうとしているのか、分からなくなったけど、誰かを責めるということではないんだけど、「森林植物園」の名札表示はそれなりの神経を使って、花の名前を正確に覚えようとする観察者に誠意を持って示すべきであると思う。
難しい「学名」を書けということではないんだけど。